「アンタ、また行くのか」
景時の屋敷で起居しているヒノエは、暗闇に溶け込む外套を羽織った弁慶を見咎めた。
いつもは六条堀川の九郎の屋敷に帰る彼が、今日は珍しく景時のところに泊まったかと思えば、やはりその真意は福原へ向けられていた。
一度被った外套を剥ぎ取ると、弁慶の琥珀の髪に月光が反射し、それはまるで金色の絹糸で編んだ錦に見える。
庭に降り立つための階で、弁慶はゆるりと苦笑ともつかぬ笑みを浮かべた。
「ヒノエ、僕はまだ何もしてませんが?」
「アンタの考えてることなんかわかりやすいんだよ、生臭坊主」
欄干に面白くなさそうに身を預けたヒノエは、苦虫を噛み潰したように言い募る。
「……いつか、ろくでもない死に方するぜ」
「仕方ないでしょう……僕は」
「アンタが動く前からこの国はきな臭かっただろうがよ!」
やり場のない憤りは欄干が何も言わずに受け止め、代わりにヒノエの拳に血を滲ませた。
完全に庭に降り立った弁慶は、簀子に座ったヒノエに視線を合わせ、また、緩く笑う。
「ヒノエ、君にだってわかるでしょう……?」
「わかんねぇよ、わかんないね!死ににいく奴の気持ちなんか知るか!」
「酷いな、君は。僕がまだ死ぬとは決まってないでしょう?」
まだ冷たさをはらむ春の夜風が、弁慶の髪を揺らし、ヒノエの緋色を乱した。
あたりに落ちる沈黙は暗闇が吸い取り、青白い月光が落とす影が弁慶の瞳から感情を奪っている。
ヒノエは、大きく息を吐いた。
「……なんでっ」
アンタが、と掠れた声は発することなく、逆に喉に戻された。
「……っ!」
「君は……」
唇を離した弁慶はヒノエの柔らかく、少年の幼さがどことなく抜けていない頬に手を添える。
「心配なら、心配といえばいいでしょう……?昔から、変わっていない……」
「アンタもだ!こんな不意打ち……っ!」
「宣言したって、君は嫌がるでしょうから」
言うや否や、弁慶は頬に添えた手をすばやく滑らせ、欄干越しにヒノエの頭を引き寄せる。
刹那、訪れた唇に、ヒノエは眼を閉じることも忘れる。
「大丈夫……僕は」
「……」
唇を離してはいるが、話すたびに吐息が直接ヒノエの肌に降りかかる。
「きちんと、君のところに帰ってきますよ……」
「……」
「ね、信じてくれますか……?」
弁慶はヒノエの緋色の双眸から僅かとも視線を逸らさずに言った。
一瞬、ヒノエの眉の悔しそうな歪みは月の光が照らし出した。
「……騙されてやるよ、クソ法師」
「君はいつも一言多いですねぇ」
改めて外套を被りなおし、弁慶は背中を向けた。
歩む道は夜の闇が隠して一寸先もわからない。
けれど、照らすのは燃える火が放つ、あの色彩。
これで大体所要時間30分くらい?
しっかしどうなんだ、これ。BL色出てんのかな?
わからんちん(ぷー)
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